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歯車

からからぐるぐる

就活の一幕

ちょっと微妙な会社に応募した話。


私は今就活中で、関東周辺での仕事を探している。今は関西に住んでいるので交通費などを考えると、チャンスは2、3回。焦っていた。


そこで、なるべく簡単に内定を得られそうな企業ばかりを求人サイトで探していた。


その中の1つが目にとまった。


社員数ギリギリ二桁名、会社の楽しさが強調され、「やりがい」「頑張り次第で」「楽しい」「独立支援」「海外研修」、Tシャツ姿でピースサインの社員の写真、リンクが機能していないホームページ……怪しさ満点だった。


しかし、逡巡したのは一瞬。応募した。


リク〇ートっぽい求人サイトに載っていたし、まあ、警戒するほどヤバい会社じゃないだろうと。載せる前にある程度調べるだろうと。


応募の翌日、いきなり電話が鳴った。
「株式会社〇〇です。応募受付ました。」
「はい。よろしくお願いします。」
「このまま電話面接始めてもいいですかね?」
「えっ。あっ。はい。大丈夫です」
「えー。では志望動機は?」


焦った。何にも考えてなかった。自己PRも志望動機も空っぽだった。まさか翌日に抜き打ちで面接が始まるなんて予想だにしなかった。

とにかく、やる気だけは誰にも負けません的な言説を振り回し、10分ほどで面接は終わった。


数日後に合格の電話があり、説明会と最終面接を受けるように言われた。


速やかに支度をし、選考前日に東京に着いた。


アルコールは控え、眠剤飲むのもやめておいた。最終面接の連絡がきた段階で、ブロンやイチョウ葉も使っていない。面接の少し前にロラゼパム(医者から面接前の服用を命じられている)を飲む。それだけ。体調には細心の注意を払った。


そして、夜中に5回、目を覚まし、6回目に目覚めた時、朝になっていた。


スーツにシワがつかないように、気をつけながら指定されたビルに向かった。そして、きっかり10分前(本当に秒単位でキッチリ10分前)に事務所に入った。


事務所というより、倉庫に偶然、机が置かれているように見えた。床屋の待合席のような椅子に通されて、数分後。


「じゃあこれから普段の仕事を見てもらいますんで」


説明会とはこれの事か。


ビルの外に、箱が縦に積まれていた。よく見ると下にタイヤが付いていた。


「これを運びます」


当たり障りのない会話をしながら駅に連れて行かれる。


駅に着くと「これから電車賃かかるけど、これは自腹になります」


もちろん、電車に乗る事は初耳である。


電車に数箱分のダンボールを乗せる。軽いものではないので、扉の前に陣取る形となり、見るからに迷惑。


しかし、心臓が強い方なのか、ちっとも気にしていないようである。


人々の視線が痛かった。


私はなるべく、無関係ですよ という顔をするように努めた。


某駅で降りた。

 

やれやれ、と村上春樹の小説みたいなことを口に出しそうになった。

 

今度はこのダンボールの山をガラガラと押して住宅街のど真ん中で突然止めて、""すぐに戻ります""と札をつけた。


「ではこれから、こちらの商品を売ります」


ん。えーと。この辺り、見た所家しかないけど、まさか…


おもむろに、ダンボールの一箱を抱えたその人は、私に「君はこれを持って」と一箱押し付けた。


そして、いきなり近くの家のチャイムを鳴らした。


ピーンポーン
「はい」
「おはよーございまーす」
「はい」
「はーーーい!」
「どなたですか?」
「はーーーーーーい!!」


日本語が分からないのか、扉開けるまで名乗らない主義なのか、どちらかは分からないが、もうその場に居たくなかった。


が、いきなり走って逃げるわけには行かないので、そのままズルズルと付いて回った。


私は、止むを得ず、ボランティアの一環として、仕方なくやっているんです という顔をしていたけど、さすがに誤魔化せなかったと思う。ずっと後ろに並んでいるのだから。ダンボール持って。


驚くべき事に、一軒だけ買っている人もいた。

「この野菜は〇〇って言って△△の珍しい××で〜」

と誉め殺されてる野菜、その銘柄は普段から私が家で食べているものだった。

「今日は特売で〜」

と言っている割には、滅茶苦茶高い。2倍ぐらいの値段だった。


詐欺をしている気分だった。


いくら関西と物価が違うとはいえ、さすがにこの値段はない。罪悪感で胸が一杯になった。


とにかく、売れたので、品物を補充しに、最初に放置したダンボールの山に戻った。


すると、「ちょっと電話してくるね。ここで待ってて。」とやたら遠くへ行き、角を曲がってどこかに行ってしまった。


何か聞こえたらマズイような会話をするのだろうか。


待っている間、私は考えた。これは無理だろうと。注視恐怖が酷すぎて精神薬を服用するような人間には不可能だと。それに、今時、こんな商売が続く訳がないと。


しばらくの後、電話を終えたのか、戻ってきた。


そして、

「どう?この仕事。出来そう?いや、ウチでもさ、イメージと違うって辞めたりする人がいたら可哀想だと思って見て貰ったんだけど。どう?」
「他の仕事などはなさったりしないのですか?」
「んー。ウチでは基本、これは全員やる仕事かなー。」


やっぱり日本語が苦手みたいだった。


「もし無理みたいだったら、ここで帰っていいよー」


その時、自分がひどく軽く扱われているように感じた。話し方や、その場の雰囲気、すべてが終わっていた。


イラつきに加え、日差しが強く、頭がぼんやりしていた。「太陽のせいだ」ムルソーなら確実に撃ってたと思う。

 

「ではこれで失礼します。ありがとうございました」


考える間もなく口を衝いて出た。


回れ右してネクタイを緩め、第1ボタンを外し、ツイッターにイライラを書いていた所、ハローワークの事を教えて頂いたので、すぐさま向かった。ようやく1日がスタートしたような気がした。